小さな世界 第12話


「むかしむかしの話だ。世界には魔女や魔法使いと呼ばれるモノが沢山いた。彼らは全員不老不死で、老いることも死ぬこともない体だった。不老不死とは人類の夢という者もいるが、それは違う。不老不死とは生き地獄だ。だから、魔女も魔法使いもその多くは死を望んでいた。不老不死という呪縛から逃れる方法はただ一つ。不死の呪いを誰かに移すこと」

自ら魔女と名乗るC.C.は、不老不死という呪いをその体に宿しているという。

「今から50年ほど前のことだ。地獄に耐えきれなくなった魔法使いが、その呪いを一人の子供に移した。まだ10にもならない幼子は、その呪いを喜んで受け入れた。魔法使いとなれば、弟を守る事が出来るからと。そして実際に兄は弟を守り続けた。弟は、兄に守られ、年を重ねた。そして、やがて一人の女性と出会い、子を成した。兄はその時、言い知れぬ嫌悪感を感じたのだろう、産まれてきた甥っ子を、呪うような目つきで見ていたよ」

そう言いながら、C.C.は、すっと視線をルルーシュへ向けた。

「まさか、その魔法使いは」

尋ねなくても答えは出ているだろうに。
そう思いながらもC.C.は口にした。

「お前の父シャルルの双子の兄。お前の叔父の話だよ」
「あの男に兄が?だが、たしか兄妹は全員」
「血の紋章事件で、シャルルの血縁者は全員殺し合い、次々に命を落とした。生き残ったのはシャルルのみ。当時の皇位継承権争いにおける公式の記録だが、正しくは生き残ったのは二人だ。そして魔法使いである兄がいたからこそ、シャルルは生き残れた」

ブリタニア宮殿に秘められた血なまぐさい話に、スザクは眉を寄せた。
綺羅びやかな皇族というイメージがあったのだが、実際は裏で殺し合っているのだ。
だから、地位のある皇子、皇女以外は、名前すら表に出てこないのかもしれない。
ルルーシュのように暗殺者に狙われ、万が一命を落としても表ざたにならないように。

「魔法使いの幼子は、初恋も知らぬうちに不老不死となり、成長を止めた。だから気づいていなかったんだ。自分が抱いた気持ちが嫉妬で、マリアンヌを心から愛していた事に。だが自分を選ばず弟を選び、そして子を成した。愛しさが憎しみに変わり、マリアンヌはシャルルを惑わす悪い魔女だという思考に囚われ始める。そして7年前、マリアンヌが暗殺された」

ただの嫉妬。母さんの出生でも何でもない。

「どうして、犯人が叔父だと?」
「お前の小人化だ。あんな芸当、魔法以外にあり得ないだろう?そしてこの箱。私は馬鹿だったよ。ブリタニア宮殿に入り、こんな事が出来る人間など、最初から私かあの幼子、V.V.以外居なかったのにな」

だが、私は最初から自分たちは除外していた。だから解らなかったんだ。

「ルルーシュが狙われたのも、それが理由なの?」

スザクは、一番大事なのはそれだと言わんばかりに尋ねた。

「そうだ。愛する女を手に掛け、それでもあいつは満足しなかった。反対にマリアンヌを失った喪失感に苛まれた。そんな中、再びルルーシュを目にした時、V.V.は思ったのだろう。マリアンヌは悪い魔女では無かった。ルルーシュが悪魔の子だったのだと。初めて目にした時の憎しみは、そのせいだったのだと」

ルルーシュに惑わされた。
マリアンヌは悪くなかったんだ。
産まれてきたルルーシュが問題だったんだ。
殺す相手を間違えてしまった。
だから僕の胸はこんなにも苦しいんだ。
ごめんマリアンヌ。でも、ルルーシュが悪いんだよ。

「愛するマリアンヌを悪とするより、お前を悪とする方があいつには納得出来たのだろう。お前が国を離れ、少ない供だけを連れて日本に訪れた時を狙い仕掛けた」

魔法使いの手にかかれば、人間を害するなど容易い事。
V.V.はルルーシュにひとしきり暴行を加えた後、小人化させてこの箱に閉じ込めた。
この箱をV.V.が盗んだ理由はマリアンヌがその手で作っていたから。
だが、V.V.は、自分のその心に気づかない。
気づけない。
きっと自分がこの箱を手にしたのはルルーシュの棺にするためだったんだ。
そう笑いながら、濁流の中へ箱を投げ落とした。

「まるで見てきたように言うな。どうやってそれだけの情報手に入れた?」

探るような視線でルルーシュはC.C.を見た。

「V.V.は護衛全員を殺したつもりになっていた。だが、生きていたんだよ、一人だけな」

護衛は息をひそめ、死んだふりをしながら全てを見ていた。
ルルーシュに呪いの言葉を吐きかけるその幼子を、その言葉を。
小さくなったルルーシュを箱に入れ、川に流すその姿を。
自分が今動いても救いだせない。
ならばこの情報を伝えなければと、唇をかみしめて。

「皆、お前は助からないと思っているが、私は違う。あの箱は我が子のためにマリアンヌが丹精込めて作った箱だ。子を愛する母の愛もまた幸運を招く奇跡の魔法。私は必ず生きていると信じ、お前を探していた」

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